僕の名前は望月綾時。
お嬢さん方、こんにちは。お兄さん方はさようなら。
全ての女性の父にして息子、恋人にして夫,それが僕、望月綾時さ!

今日も今日とて僕は学校に登校する。
歩いていても女の子たちが小鳥のような可愛らしい声を聞かせてくれるから、僕の機嫌はいたって良好。
なかにはちょっと引っ込み思案な女の子もいるけれど、とびきりの笑顔でにっこり微笑みかければ、嬉しそうに柔らかそうな頬を真っ赤な林檎のように可愛らしく染めてくれる。

ああ、女の子ってすばらしい!

これは僕の推測だが、例えば世界中の女性に一度に微笑み掛けられたら、それだけで男は昇天してしまうんじゃないだろうか?
ただにっこりするだけで、ただ小首を傾げるだけで、ただ幸せそうにしているだけで、周囲の人間まで幸福にしてしまう女性の素晴らしさよ!
愛すべき、とはまさにこのこと。世界中の男たちは、彼女らを幸せにするためだけに存在していると言っても過言ではないね!

それにしても、今日はなんだかいつもよりたくさん声をかけてもらってる。
もちろん、彼女たちが僕の耳元でさえずるのは、いつでもどこでも嬉しいものだから、いくらでも僕のためにその鈴の音の音楽を奏でて欲しいのだけれどね。
さすがにちょっと不思議に思って訊いてみた。今日はみんないつもよりにぎやかで華があっていいね、何か良いことがあったのかな?

そうしたら、僕に質問された女の子は驚いたように魅力的な鳶色の瞳を丸くして(その様子のなんと可愛らしいこと!)
 
綾時くん知らないの!今日はバレンタインなんだよ!

って教えてくれた。
突然の不躾な質問にも嫌な顔ひとつせず答えるだなんて、彼女はなんて優しいのだろう!


でもバレンタインって何?


どうやらバレンタインデーというのは、好きな人になっている人にその想いの丈を伝えるための記念日らしい。
なんでも、偉大な聖職者が殉教死した日が由来であるとかなんとか、そのへんはけっこういい加減みたいだ。
全国一斉告白記念日のようなものだよ。といたずらっぽく笑いながら鳶色の瞳の彼女が教えてくれた。
そうかだからみんないつもより話し掛けてきてくれたのか、僕って愛されてるなぁ嬉しい!
だから、はい!と彼女が鞄から取り出したのは、シンプルな装飾が施された小さな箱。
告白するときはチョコレートを一緒に渡すんだよ。とにっこり笑って差し出すその箱は、なんと僕のために用意されたものだった!
これからも仲良くしてね。と言って、彼女は走り去っていった。鞄の中にはまだまだたくさん入っているようだったから、きっと他の人たちに配りに行くのだろう。
たくさんの大事な絆を持つなかで、一番に僕に渡してくれた彼女に感謝しながら、僕は考える。


僕も誰かに、大切な人に、大切で愛しいあの人に、この想いを伝えたい、と。

僕の大切な大切な───────────








金糸の髪の輝く彼女