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まあ、型に流すだけとは言っても「手作り」に変わりは無いだろう。 下手に挑戦して失敗するほうが怖いしね。 ようは気持が篭っていればそれで良いんだ! アイギスは喜んでくれるかな。 彼女のことだから 「あなたから貰うものなんて口に入れたくありません食中毒になります」 なんて言って受けとってくれないかも。 けどもしかしたら気まぐれに受け取ってくれるかもしれない。 なんてったって今日は 「バレンタインデー」!! なのだ! どろどろに溶かしたチョコレートをハートの型に流し込みながら、僕は彼女に想いを馳せた。 ************************ もうすぐ18時になろうとしているのに、アイギスはまだ教室にいた。 これが僕を待っていたからだとかそういう理由なら、それはもうとってもとっても月が落っこちるくらい嬉しいのだけど。 悲しいことに、そんなことはありえないって自分が一番よくわかってる。 それでもこれが大チャンスなことに変わりは無い。 女の子がこんな遅くまでのこってちゃ危ないよ なんて言いながら寄っていけば、席について何かしていたアイギスは僕を視界にいれたとたん、車に轢かれた毛虫の死骸でも見つけたみたいに眉間にしわを寄せて、 大きなお世話です近寄らないで なんて冷たい言葉をかけてくるけどいつものことだから気にしない。 そんな彼女の手元を見やればなんとまあ大量の書類が束になっているじゃないか。 傍らにステープラーがあるから、おおかた授業で使う冊子か何かを製本していたのだろう。 彼女はこういった単純な作業は得意としているから、よくそれを知っている教師に手伝わされていた。 まあ、そこで嫌な顔せず二つ返事で引き受けるようなところも好きなのだけどね。 よくよく見るとプリントの上にはこの国の昔の言葉が並んでいる。 古典か。たしかにあの教師なら、こんな日が落ちるのも早くなってきた二月の寒い放課後でも、女子生徒に大量の内職を押し付けてもおかしくは無い。 同じ男の風上にも置けない奴だ。 古典教師のいかにも陰険そうな顔を思い浮かべているとき、ち、というまるで舌打ちしたような音が聞こえた。 っていうか舌打ち以外の何でもない。 まあなれてるから気にしないけど。 それでもやっぱり進んで彼女の機嫌を損ねたいわけではないから、用事はさっさと済ませるに限る。 はいどうぞ、と可愛くラッピングした(我ながら良い出来だ)を取り出せば、一瞬驚いたような顔をして 「毛虫か何か入ってるんですか」 なんて言う。 そんなことするわけないじゃないか! どれだけ否定しても不審そうにして受け取ろうとしない彼女に、しかたがないのでその場で開けて中身を見せた。 せっかく頑張ったラッピングは自身の手で解かれてしまったけど、そもそも受け取ってもらわなければ意味無いのだからしょうがない。 箱の中に鎮座する大きなハート型を見たアイギスは、余計に眉間のしわを深くしたけれど気にしない。 君が好きだ大好きだ世界中のだれより好きだ愛してる!! 僕の知っている言葉のありったけで思いのたけをぶつけた僕に返ってきたのは相変わらずの否定の言葉で、予想していたことではあったけれどすこしがっかりした。 でも 「食べ物に罪はありませんから少しだけ頂きます」 といって食べてくれたそれだけでこんなに舞い上がってしまうなんて本当に僕はどうかしてると思う。 (バキリと音を立てて真ん中で割れたハートには気づかないフリをした) |
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